はじめに
2009年、瀬戸内国際芸術祭の会場となる島々を訪れた時、即座に男木島の魅力に取り付かれました。西向きの斜面につくられた集落の路地を歩いてゆくと、石壁と家の屋根と海と空が次々に魅力的な風景を作り出し、奥へ奥へと足が進みました。豊玉姫神社の階段から眺める夕焼けは自然が作り出した芸術で集落 全体が劇場のような印象をうけました。
ヨーロッパの城壁都市のように密集して立ち並ぶ家屋群は、島全体を一つの建築のようにも感じさせま す。家屋や廃屋に植物が覆い絡まる美しい姿を見ながら、同時にこの景観が近い将来に消滅してしまう危機感をもち、集落の記録を残すための調査を2010年にスタートしました。
この10年の間で、島では少しずつ、故郷に戻る人たちや新しく移り住む人たちが現れて、男木島にあたらしい風景をつくり始めています。島の魅力を知る人たちが増え、発信力が高まっていくなかで、私たち の10年間の研究調査が、島の歴史や文化の継承、みらいの景観づくりの一助になればという思いで、このウェブサイトを立ち上げました。
2021年9月 安部 良
安部 良(建築家)
安部良アトリエ一級建築士事務所主宰
日本建築学会正会員
九州大学大学院博士後期課程環境遺産デザインコース